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「鬼門ですか。服部先生、女子にも分け隔てなく厳しいって評判ですけど」
「当たり前だ。体力的な部分は場合によっては考慮しなくもないが、能力に男子も女子もクソもあるか。できる奴はできるし、みそっかすはみそっかすだ」
それでも服部が完全に生徒を見捨てることはないことを、武市は知っていた。
「そんな服部先生でも女子は鬼門ですか」
「鬼門だ。おれは、もらえなかった」
「? 何をですか?」
「チョコレート」
その素直な答えに、思わずぶっと吹き出してしまう。それを見た服部は、怒ったような表情になる。おそらく、照れ隠しだろう。
「欲しかったんですか、生徒からチョコレート?」
「別にいらねえけど、ひとつもないってのは、結構ショックだぞ? おまえ見たら、ちゃっかりもらってやがるし。……北野先生ももらってたしな」
「来年はもらえるかもしれないですよ、ほら、生徒も中等部卒業だし。三年間お世話になったってことで」
「だからいらねえって。おれは副担任だし、まず北野先生だろうし、あいつらだってチョコレート代を捻出するのも大変だろ。何とか持ち込める小遣いなんて、微々たるもんだからな」
「来年、もらえるといいですね」
「あー、しつこい。早く帰るぞ。電気消してけよ」
そう言って服部はさっさと職員室を出てしまった。茶化しすぎたかな、と残された武市は反省する。
職員室の電気を消すと、校舎内は完全に暗くなった。
窓から差し込む月の明かりと、非常灯の明かり、それから赤く光る消防灯を頼りに歩みを進める。
暗い職員玄関先で、自分を待っている服部の影が見えた。
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