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職員用玄関の鍵を閉め、扉を軽く引っ張り鍵がしっかりかかっていることを確認すると、服部は携帯の明かりをつけて時間を確認した。
携帯からぶら下がっている馬鹿でかいラビットフットのストラップが、ゆらゆらと揺れる。
「そんなでかいの、邪魔じゃないですか?」
ラビットフット……幸運のお守りのはずなのに、服部のそのストラップを見て、生徒たちが「本物のウサギの足らしい」と気味悪がっているのを武市は聞いたことがある。
実際、武市が受け持つ二年二組の橘和美から訊ねられたこともあった。
深刻な顔つきをしていたから、「質問があるんですが」と言われたとき、何か大きな悩みでも抱えているのかと身構えてしまったのに。
「三年二組の服部教官が持っていらっしゃる携帯のストラップって、本物のウサギの足なんですか?」
橘和美は成績優秀で真面目な生徒だったから、まさかそんな質問がくるとは思っていなくて、思わず少し笑ってしまった。和美は、少しむっとしたようなしてないような顔をして、服部に負けない程の他人をひるませる眼力で、武市を見据えた。
「皆噂してますけど、嘘なんですか?」
「どうなんだろうね、服部先生に聞いてみないと。今度見せてもらったらどうかな。爪があれば、本物のウサギの足かもね」
橘和美の顔色が一瞬だけ、さっと青くなった。
慌てて武市がフォローする。『服部教官は山でウサギを狩って、その足を切り落としてストラップにしているらしい』などと噂が立ってしまったら、服部に申し訳ない。
「例え本物でも、お店で買ったものだと思うよ。もちろん服部先生の手作りじゃないよ?」
「……お店で、本物のウサギの足が……売ってるんですか……」
それだけ言うと、橘和美は目を大きく開いて絶句してしまった。よほど、「本物のウサギの足」がショックだったのだろう。
どうやらフォローの仕方を間違えてしまったらしい、と気付いた時にはもう遅く、橘和美は、どこか焦点が合わない虚ろな目をして、「失礼します……」と去っていってしまった。
どこかフラフラとした足取りで去っていく橘から、「本物……かわいいのに……もふもふなのに……本物……」という呟きが聞こえたような気がした。
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