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「そう言えばお前、車はどうする?」
こちらを振り返って服部が聞いた。
「おれんとこに停めて代行で帰るもよし、このまま学院に置いておくのもよし。その場合は、今日はおれんとこで泊まれ。明日の朝、学院まで送ってやるから」
「そうですねえ、でも、誰かに見られたら噂になりますよ」
「……おれとおまえで、何の噂になるってんだ」
「年頃の生徒の考えることは突拍子もなかったりしますから。俺と服部先生で夜遊びしていたらしいとか。それくらいならまだかわいいほうで、山にこもって修行していたらしいとか、授業で使うトラップを準備していたらしいとか、実は模擬演習で使う爆弾を作っていたとか、おかしな噂になりかねないかと」
「噂ばっかりだな。おれは都市伝説か何かか」
「まあ、一種の伝説に近い存在になってると思います」
「そりゃ嬉しいことで」
全く嬉しくなさそうな口調でそう言うと、服部は車のキーのスイッチを押した。ピピッと音がして、服部の自家用車のSUV 4WD車のライトが二回点滅する。開錠の音がして、それからエンジンがかかった音がした。
助手席のドアを開けて鞄を中に放り込むと、服部は武市に向かって言った。
「じゃあ、おまえ、おれの後ついてこい。代行呼んで帰るのもいいし、そのままおれんとこに泊まって朝帰るのでもいいし。ここから二十分ほどのとこだ」
「噂通り、山の麓なんですか?」
車に乗り込もうとしている服部に訊ねる。服部はそのまま運転席に座り込もうとした形で、腕だけをにゅっと突き出した。そして親指を突きたて、そのまま下に向ける。そして若干凄みのある声で答えた。
「ああ、噂通り、山の麓だ」
その返事を聞いて武市は少し笑ってしまった。それから我に返ると、急いで自家用車のセダンに乗り込み、エンジンをかけた。
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