その一

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 と、なかなか抜けないスコップを引っ張りながら訊いた。 「だから言っただろう。人間だ」 「人間? ――人間って、一体誰を?」 「うるさい! 黙ってやれ」  俺の一喝で、後輩はしぶしぶスコップを持ち直した。こいつは今まで、俺に逆らったことはないのだ。  もちろん俺に対して従順だから、というだけでは手伝ってくれるはずもない。  殺人、もしくは死体遺棄の共犯になるかもしれないのだ。だから俺は後輩のために、バイト代と口止め料と称して、多額の金を最初に見せていたのであった。 「そろそろハシゴがいるな。せっかく深く掘っても、上がれないんじゃ何にもならない」 「それもそうですよね」 「すぐそこに用意してあるんだ。持って来てくれないか」
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