あなたがとても優しいので、私は少しだけ泣きそうになりました

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怪しまれないように気分が悪いと嘘をつき、あの屋敷にいることさえ嫌で、結局離れの訓練場にふらふらと辿り着いた。 私の居場所と呼べる場所は、家の中でさえ自分の部屋とこの離れしかない。 嘘を塗り重ねた自分も、居場所がない自分も、恥ずかしくて情けなくて悔しくて、もう何もかもが嫌になってしまう。 夜も更けてもう深夜と呼んでもいい時間で普段ならこんな時間に屋敷を出歩くのは禁止されているが、義母の出産のため自分を咎める人なんてこの屋敷には一人もいなかった。 訓練場の石段に座っていると、しんと耳が痛くなるほどの沈黙と肌を刺す寒さが急に怖くなって、体をぎゅっと抱きしめると―― 「ユニフィア様……?」 突然後ろから名前を呼ばれて、思わずビクッと体を震わせてしまった。 しかしその声には聞き覚えがあって、はあ、と白い息を吐きながら振り返る。
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