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―空港
4月上旬、AM7:30
今日から新学期が始まる。
ガラガラと荷物を引きながらようやくホームに辿り着く。
「ふぅ…やっと帰ってきた…。」
故郷。
恋人、恭介の待つ場所に。
帰ることは恭介には伝えていない。
理事長にも言わないようにと釘を打った。
恭介、きっとびっくりするだろうなぁ。
僕は空港を出て、タクシーに乗り、運転手に行き先を告げる。
「氷憐高校までお願いします。」
「おや、お嬢ちゃんは学生さんかい?」
「色々と間違ってますよ運転手さん…」
そう言うと運転手さんは首を傾げ、何のことかと言ったような表情をする。
「僕はお嬢ちゃんじゃないです。男です。それに、今年度で二十歳になります。」
「は……!?」
運転手さんはびっくりして、ぽかんとしている。
「青ですよ。」
「あ、あぁ…そうだね…。」
運転手さんは焦ってアクセルを踏む。
「驚いたなぁ、高校に行くって言ってたから私には16才の美少女に見えたんですがね。」
「若く見られるのは嬉しいですけどね。」
僕は苦笑いをして窓の外の景色を見る。
二年も離れると、少しだけ町並みが変わっている。
昔はあった店は小さな料理店になっていたり、大きなビルになっていたり。
恭介は、どう変わってるのかな?
僕は、何も変わってないよ。
強いていうなら、料理学校だったから少しだけ体重が………
…これ以上言うのは傷を抉るだけだね。
「着いたよ。」
車が止まる。
「ありがとうございました。」
賃金を支払い、荷物を下ろして貰った。
「…何も変わってないなぁ。」
氷憐高校は、前と何も変わらずにそこにあった。
「もう少しで開会式か。急がなきゃ。」
僕は高校の敷地に第一歩を踏み込んだ。
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