5人が本棚に入れています
本棚に追加
程無く。
スピーカーから手数の多いドラムフィルが炸裂し、ディストーションで歪んだギターがイントロのリズムを刻み始める。
曲調は、どメタル以外の何物でも無く、スピーディなバスドラのキックに合わせて一樹の身体が揺れている。
「何事?」
思わず顔を見合わせている麻美とレイを見た一樹はニヤリと笑う。
そして。
「あ"あ"あ"ぁぁぁーーーッ!」
一樹がマイクに叫んだ雄叫びは、甘さの欠片も無い狂った金属質な犬の雄叫びを思わせた。
《im a extormentor》
首筋にぶっとい血管を浮き上がらせ、気が触れた様なハイピッチ&ハイシャウトを続ける一樹は普段からは想像出来ない姿であり、麻美もレイも神村までもが唖然としている。
疾走するリズムがブレイクに入ると、坊主が木魚を叩く様なドラミングに合わせ、一樹はシャウトからグロウルに唱法を変え、お経を唱えるかの様に低く唸る。
その一樹の姿は、神村の華やかさとは比べ物にならない位にむさ苦しく暑苦しいが、そんな事は知らぬかの如く一樹は喜々とした表情を浮かべていた。
曲の最後に三連ハイシャウトをぶちかまし、一樹のカラオケは終了した。
歌い終わって直ぐにお決まりの拍手は起こらず、麻美とレイはぽかんとした表情を浮かべていたが。
はっと気を取り直した二人の拍手と笑い声が起こり、一樹は肩で息をしながら苦笑していた。
麻美の気持ちが一樹へと向いた様に思った神村は、面白くなさげな表情を浮かべている。
「レイちゃん、ちょっといいかな?」
「はーい」
麻美はレイをボックス席へ呼ぶと、神村との接客を交代し一樹が座るカウンターへと戻って来た。
最初のコメントを投稿しよう!