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「ハハハッ。
信じられ無い声してんだね。
普段は割と低い声なのに」
麻美は一樹のグラスに酒を注ぎながら、初めて聞く歌声の感想を述べた。
「本当。久し振りにヘルプリ歌ったけど滅茶苦茶ハードだわ。
やっぱオヤジになったって事だろな」
一樹は息を切らしつつ、グラスが空になってる麻美へ酒を勧める。
「飲む?」
「勿論」
麻美は嬉しそうに自分が飲む酒を作り、グラスを手にとった。
「君の歌に乾杯ッ」
「んじゃ俺は・・・
君の美しさに乾杯ッ」
互いにニヤニヤしながらグラスを合わせ酒を喉に流し込む。
一樹が歌った以降は神村がカラオケを歌う事も無く、店内はジャズ系の曲が静かに流れている。
自分のモヤモヤ感を発散させる為に歌いはしたものの、何となく大人しくなってしまった神村を見た一樹は、何か悪い事したなと思い始めていた。
麻美がいない事もあり、レイとも気まずそうな様子でもある。
「麻美ちゃん?」
「ん?」
「あのさ・・・
俺はまた来るから、後ろの人の所に行ってあげなよ?
麻美ちゃん目当てで来てるんだろし・・・」
「それが嫌なのよ。
アイツが私に触るの見たでしょ?
まだ若いのにオヤジみたいにさ・・・
カズ君は飲み行っても女の子に触らないでしょ?」
ほんのり酔ったのか、それとも怒りなのかは解らないが、麻美の顔はちょっぴり赤く染まっている。
「まぁね、変な店じゃ無いしさ。
でも、変な店だったらガッツリ触りまくるかもね」
一樹はタバコに火を点けながらクールに言い放った。
「エロオヤジめ。
でも、それが本当なのにさ・・・
最近のガキは萎えるわ」
麻美はぶつぶつ言いながら、グラスの酒をぐいっと飲み干した。
「麻美ちゃんもオバチャンになったって事だぁ~。
まぁ、とにかく飲め飲め」
麻美の顔をまじまじと見つめながら、ニヤリと告げた一樹だったが、麻美に軽く腕を小突かれる事となった。
「24の小娘に向かってオバチャンってか?
そんな事言うなら、閉店まで拘束確定な?」
「マジでかッ!」
麻美は一樹に構う事無くニヤリと笑うが、こういったやり取りもまたいつもの事である。
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