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「これ・・・バーボンだけど大丈夫なの?」
一樹と麻美の心配をよそにレイは強く頷いた。
「はい。
大人の味を味わってみたくて」
「まあ・・・
いい社会勉強になるだろうね」
ニヤリと笑みを浮かべた一樹は、レイのグラスに少量のバーボンと水をぶち込み水割りを作ってやった。
「よっしゃあ!
改めまして乾杯ーーーッ!」
三人の乾杯の音頭とグラスが合わさる音が、静かな店内に響き渡った。
「うわッ!何か苦いですよ~」
「だから言ったのに・・・」
「この苦さが美味さに変われば、レイちゃんは大人の仲間入りって訳だな」
「それ・・・大人じゃ無くて。
オヤジの間違いじゃない?」
「ふッ・・・言ってくれるぜ」
そんなしょーもない会話と笑い声が店内に響き、麻美の飲み物も一樹のバーボンへと変わり、宴会の様な様相を見せる中。
麻美の手元に置かれてたピンクの携帯から、流麗なピアノが駆け抜けるメロディーを響かせながら着信を告げていた。
「ちょっとゴメンね」
麻美は携帯を手に取り、着信の主と会話しながら席から外れた。
「今のメロディーって・・・
確かクラシックだったと思うけど」
ほんの数曲から知らない、クラシックの元曲を思いだそうと一樹が記憶を辿る中、ほんのり赤ら顔のレイが一樹に告げる。
「ショパンの曲だったと思いますよ。
確か・・・幻想即興曲だった気がします」
「そそ!
そんな感じなタイトルだった。
昔メタルバンドで誰かがコピーしてたって覚えてたけど。
麻美ちゃんとショパンって似合わないと思わん?」
「いえいえ・・・」
一樹がレイへニヤリと語る中、通話を終えた麻美が場に戻って来るなり、ジロリと一樹を睨み付けた。
「うわッ!睨まれちまったぜ。
てか、レイちゃんは着信はどんなんなの?」
「私は、北野ナナですね。
めっちゃいいですよね?」
レイが挙げたアーティストは、一樹にはテレビのCMで名前を名前を見掛ける程度の事しか解らない。
「ああ~無駄だよ。
カズ君は流行り系は壊滅だし。
そもそもオヤジだし、レイちゃんが優しく教えてあげても、ちっとも解んないと思うよ」
軽く悪態を尽いた麻美は、憂鬱な表情を浮かべつつ、一樹の二つ隣のテーブルに酒の準備を始めていた。
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