Episode.1 Introduction

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「これ・・・バーボンだけど大丈夫なの?」 一樹と麻美の心配をよそにレイは強く頷いた。 「はい。 大人の味を味わってみたくて」 「まあ・・・ いい社会勉強になるだろうね」 ニヤリと笑みを浮かべた一樹は、レイのグラスに少量のバーボンと水をぶち込み水割りを作ってやった。 「よっしゃあ! 改めまして乾杯ーーーッ!」 三人の乾杯の音頭とグラスが合わさる音が、静かな店内に響き渡った。 「うわッ!何か苦いですよ~」 「だから言ったのに・・・」 「この苦さが美味さに変われば、レイちゃんは大人の仲間入りって訳だな」 「それ・・・大人じゃ無くて。 オヤジの間違いじゃない?」 「ふッ・・・言ってくれるぜ」 そんなしょーもない会話と笑い声が店内に響き、麻美の飲み物も一樹のバーボンへと変わり、宴会の様な様相を見せる中。 麻美の手元に置かれてたピンクの携帯から、流麗なピアノが駆け抜けるメロディーを響かせながら着信を告げていた。 「ちょっとゴメンね」 麻美は携帯を手に取り、着信の主と会話しながら席から外れた。 「今のメロディーって・・・ 確かクラシックだったと思うけど」 ほんの数曲から知らない、クラシックの元曲を思いだそうと一樹が記憶を辿る中、ほんのり赤ら顔のレイが一樹に告げる。 「ショパンの曲だったと思いますよ。 確か・・・幻想即興曲だった気がします」 「そそ! そんな感じなタイトルだった。 昔メタルバンドで誰かがコピーしてたって覚えてたけど。 麻美ちゃんとショパンって似合わないと思わん?」 「いえいえ・・・」 一樹がレイへニヤリと語る中、通話を終えた麻美が場に戻って来るなり、ジロリと一樹を睨み付けた。 「うわッ!睨まれちまったぜ。 てか、レイちゃんは着信はどんなんなの?」 「私は、北野ナナですね。 めっちゃいいですよね?」 レイが挙げたアーティストは、一樹にはテレビのCMで名前を名前を見掛ける程度の事しか解らない。 「ああ~無駄だよ。 カズ君は流行り系は壊滅だし。 そもそもオヤジだし、レイちゃんが優しく教えてあげても、ちっとも解んないと思うよ」 軽く悪態を尽いた麻美は、憂鬱な表情を浮かべつつ、一樹の二つ隣のテーブルに酒の準備を始めていた。
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