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しかし。
店内の音がジャズ系に戻る事は無く、液晶画面には次の曲が表示されている。
《マリア 堕天仔666》
程無く、4カウントのクローズハイハットのシンバル音が響いた後。
「混沌から生まれる愛は、罪に震えるマリアを誘う」
的な歌詞と甘ったるい歌声を、スピーディーなリズムに乗せ再度熱唱を始めた神村に、一樹の気持ちは益々萎え始めた。
ノリに乗って立ち上がり歌う神村の後ろでは、麻美が虚ろな表情で拍手を送っている。
カラオケボックスと化しそうな状況に一樹は溜め息を吐くと、レイが新たに作ってくれたグラスの中のバーボンを一気に飲み干した。
「そういや、一樹さんは歌わないんですか?」
笑顔で尋ねてくるレイヘ一樹は苦笑を浮かべる。
「音痴だからね、俺は」
「またまた~
そんな事言わずに歌いましょうよ~」
このレイとのやり取りは、飲み屋の子の受け答えとしては満点に近いが、一樹はやんわりとスルーしつつカラオケが終わるのを待っていた。
最後のギターの残響音がスピーカーから響き、ようやくカラオケが終わるかと思われたが、無情にも液晶画面には次の曲が表示され、カラオケはまだまだ続く様子である。
まだまだ一樹は酔い足らず、かといってカラオケボックスには長居はしたく無いので、酒のピッチを上げる事にした。
新曲を熱唱する神村が曲の途中で。
《俺の歌はマイハニー麻美へ捧げる為に歌うのさ》
とアドリブを入れてご満悦な様子である。
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