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「美衣、おはよう。……あれ? あーあー。……はい?」
おかしい。挨拶をした自分の声が、まるで自分のものとは思えない、一言で説明するなら女の子のような弱々しく高い声だった。喉の調子がおかしいのか、慌てて喉に手を当てる。
「なんてこった……」
仏様がお亡くなりになっていた。二次成長後だから、享年五歳くらい。最近やっとそのお姿を拝めるようになってきたっていうのに……安らかにお眠りください。
……いやいや違うから。喉仏ってそんな神々しいもんじゃないから。どちらかというと男の象徴的なものだから。
どうも今日は無駄にテンションが高い。あ、いつもは普通に真面目な好青年なので心配しないでください。これでも最近そこそこ有名な大学に合格したばかりなんです。
脳内ボケツッコミをして我に返ると、美衣が半開きにした口の端からだら~っと白い液体を垂らしながらボクを見ていた。
「おい美衣、口から垂らすな。汚いぞ」
兄としてきちんと指摘する。まったくだらしがないが、これでもコイツ、今年から高校二年生なんだよな……。
肩にかかるくらいの長さで切り揃えられたはずの黒い髪はぼさぼさで、愛らしい垂れ目も今はこれでもかというくらいにカッと大きく開いている。女の子としては平均的だと思われる身長に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ(美衣曰く)ご自慢のぼでーは、今は皺の寄ったパジャマで見る影もない。
それにしても、美衣はどうしたんだ? ボクの言葉にはまったく反応しないのに、目だけはまるで幽霊でも見たかのように驚愕を顔に張り付かせている。その視線の先にはもちろんボクがいる。
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