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「どうした美衣?」
いまだ硬直したままの美衣に近寄り、間近から見上げる。……ん? 見上げる? まただ。さっきからおかしなことが続く。なんでボクが美衣を見上げる必要があるんだ? たしかボクの身長は172センチくらいだったはず。これで見上げるとなれば、美衣は180センチ以上あることになる。しかし、洗面台の大きさと比較して、美衣の身長が180もあるようには到底見えなかった。つまりはボクの身長が低くなったと考えるべきだろう。
さすがにスルーすることができなくなった。美衣の反応、そして起きてから続く体の違和感。これらを総合すると、おのずとその答えは見えてくる。そろそろ目を背けたい現実と向き合うときが来たらしい。気持ちを切り替え、ゆっくりと視線を下ろす。
肩にかかった繊維は銀色の髪の毛で、引っ張ると痛いことからボクの頭から生えているのは確実だ。重力を感じた胸には二つの小さな膨らみがあって、触るとフニフニとした柔らかな感触が返ってきた。腰に手を当てればくびれがあり、ズボンの中を覗き込めばアレがなかった。
ん~~~~…………。
長考。いやもうなんとなく分かってはいる。けれど、だからといって「はいそうですか」と認めるわけにはいかなかった。
「お、お兄ちゃん、だよね?」
視線を上げる。美衣がカタカタと震える手でボクを指差していた。震えたいのはこっちの方だ。
「たぶん美衣のお兄ちゃんのはずだ」
なんか自信がなくなってきた。ボクが寝ている間に宇宙人か何かにこの体を改造されたとか、実はボクは偽物でクローンでしたとか。そういうことも無きにしも非ずだ。限りなくゼロに近いだろうけど。
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