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昇降口にたどり着き、『吉名司(よしなつかさ)』と書かれた下駄箱の前に立つ。個人情報のだだ漏れ具合に苦笑しつつ、頭上の扉を開く。すると中から平べったい長方形の物体が滑り落ち、コンと頭に当たった。床に落ちたそれに思い当たる節があって、顔を歪める。
拾い上げたそれはやはりラブレター。しかも二通。裏返すと名前が書いてあった。一つは男から。そしてもう一つは女の子から。……もう頭痛い。今のボクは女なのに、女の子からラブレターって。いや、男からもらうのはもっと願い下げだけど。
「あ、今日ももらったの? モテる子は辛いね~」
美衣がニシシと笑いながら近づいてくる。
「ほんと、辛くて頭痛い。だから今日は早退で――」
「それはダメ」
「ケチ」
頭痛の種を鞄にしまって、ローファーから上履きに履き替える。視線を上げると美衣の胸元の校章が目に入った。その校章は黒色で、二年生であることを示している。対してボクの胸元には一年生であることを示す白色の校章が光っている。なんで去年卒業したばかりの高校の校章をまた付けなくちゃいけないんだと憤りを感じるが、今更嘆いても仕方ない。
そう。今のボクは美衣の妹ということになる。ほんの数週間前まではボクが二歳年上の兄だったのにだ。
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