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火蓋は切って落とされた――短筒が雷火の如き死の弾を噴く。
穿たれる空(くう)。おののく無数の枝葉。
しかしその先にベルクトの軸はすでに無い。横に跳んだのだ。
「どうした!? その『ジュウ』とやらで俺を殺すんじゃなかったのか?」
「ちぃっ! ナメんなァ!!」
続けざまに速射、掃射。
1発1発が投石よりも、弓矢よりも、高速かつ強力で連射が利く。当たれば肉に風穴が開き、すぐに足が止まるだろう。
しかし、やはり使い手は素人のようだ。
目線、呼吸、武器の向き、どれも単調で狙いを事前に物語っている。足の運びも緩慢、ほぼ棒立ちだ。さらにあの短筒の射撃物は直進しかしない。
(円の軌跡を描けば!)
短筒の男を円の中心として、山道を疾駆するベルクト。
奴はこちらの身体を被弾域に捉えようと躍起になっているが、上体と足腰が噛み合わなくてはベルクトの動きに追い付けるはずもない。
腕の稼動範囲を越えて短筒の口を向けられなくなった瞬間、一度指の屈伸を止めて構え直す必要が出てくる。
雌雄を決するのはその瞬間だ。
「――貰った!」
殺意の雨霰(あめあられ)が止む刹那、背面から急襲する。
「ひっ!?」
驚愕に見開かれた眼が奴の横顔から覗く。
その表情にアングリアの爪を突き立てれば――
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