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そう…あれは…兄さん達家族が熱を出した母の様子を見に来た時…
「おばあちゃんのお部屋に入りたくない」
小学生の姪っ子は、結局一度も顔をまともに上げないまま、素通りしてリビングで携帯型ゲームを高音量で楽しんでいる。
義姉さんは愛想笑いをし、話がほとんど通じていない母さんに適当に声を掛け、早々にリビングへと戻ると携帯を弄り始めた。
綺麗にブローされた髪、若々しく見せるメイク、華やかなネイル…そして、今風のファッション…
また胸がズキンとし、気持ちがイライラする。
「お義母さんも雪ちゃんがいいんだろうけど、私には介護は無理だわ」
義姉さんは戻って来た兄さんに内緒話をしているつもりなんだろうけど、キッチンまで丸聞こえだ。
「だって凄いオシャレだった雪ちゃんがあんな老け込んで、化粧もまともにしてないオバサンもいいとこじゃない?私より年上みたいよ。手だって荒れてガサガサだし…」
「やめろって!本当なら俺達がしなきゃならないのを、雪音と親父に任せっぱなしなんだぞ」
「私なら、どっかに入ってもらうわね。在宅介護なんて絶対ごめんだわ」
“ガシャンッ”
私は運ぼうと持ち上げたトレイを叩きつけるように置き、リビングへ通じるドアを激しく開けた。
「それで私や母さんが、義姉さんに迷惑かけたっての?」
「え…ゆ…雪ちゃん?」
「アンタも、今日は何しにここへ来たの?そんなにゲームしたいなら今すぐ帰りなさい!」
私は姪っ子を怒鳴り付けた。
「兄さん、もっと奥さんと娘をしっかりしつけといてよね。曲がりなりにもウチの長男なんだから」
兄さん一家は驚いた顔で私を見上げている。
「義姉さん…今日は何をしに来てくれたのか知らないけど、長男の嫁として少しでもイイトコ見せたいのなら、そんな格好じゃ何も出来ないわよ。まして、いくら綺麗にしたって、体拭いたりトイレ介助も、そんなご自慢の爪が割れて大変よ」
今の私は嫌味たっぷり嫌な私だ。
早く…早く夜になって…
早くコーヒーが飲みたい。
寺嶋さんに会いたい…
早く寺嶋さんに会わせて…
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