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「いらっしゃいませ」
ああ、よかった…今晩も寺嶋さんがいる。
私の心は少し晴れ渡っていくようで。
いつものようにコーヒーを買い、いつものように椅子に腰を掛け、いつものように窓の外に目をやる…
ガラスに映し出されたのは、よれたジャージに身を包んだ…
(ふっ…本当に…オバサンじゃない…)
自嘲気味の笑みをたたえた私…
(『来年大厄だから、お正月来たら節分までに厄除けに行け』とか言ってたなあ…)
友達が近くの神社に行った時に厄年の表を見て、わざわざ写メまでくれた。
(早いなあ…もうこの生活を始めて何年目になるんだろ…それにしても、宮参りの写メなんてもらったところで、嫌味だって)
何気なく送られてきた写メを眺めてみる。
「可愛い赤ちゃんですね」
「えっ…」
「あ、すみません…覗くつもりは…」
寺嶋さんがちょうど私の後ろに立っていたのだ。
「ああ…いいですよ。友達のね、赤ちゃん。この間お宮参り行ってきたからって」
「へえ~」
(やったあ~。少し話ができた。これは写メさまさまかも…)
「来年大厄だから、厄除け行かないとって言ってたの。やだなあ…私どんどんオバサンになるわ」
「そんなことないですよ。あ、俺は再来年かその次の年だったかなあ。男の大厄は25らしいんで。『その時は厄除けに行っておけよ』ってじいちゃんに言われました」
寺嶋さんは『みんな行ってるもんなんですかね?』なんて笑っている。
今日は嫌な気分になったけど、話が思ったよりできて寺嶋さんの眩しい笑顔が見れたから。
最後の最後で逆転だわ。
うん…ラッキー。
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