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「母さん…私、来年大厄だって。早いよねえ」
何だか寺嶋さんとの会話が嬉しくて、私は母の介護をしながら話していた。
「私がね。お母さんとね」
「ううん…私、雪音がね。来年大厄なんだって」
「お母さんと行くの」
嬉しそうに母は笑っている。
「……そっか。お母さんと行くの?いいなあ」
「お母さんと行くの…ふふ…」
母の世界は、私にはわからない。
でも、楽しそうだしいいかな?
いつもなら、ここでイラッときたりしていた。
母の気分に波があって、良い時と悪い時の差が激しくて戸惑い、悪い時に言われる言葉に腹をたてたり涙を流したり…
『なぜ、私がこんな思いしなきゃなんないの?』とクッションを布団叩きが折れるまで、叩き続けたこともあった。
でも、なんでだろ?
今日は『ま…いっか』って流せる気分。
たぶん、昨日寺嶋さんと少し話をしたからかな?
単純だね…私。
自分にとって寺嶋さんと話せただけで効果覿面じゃない。
「母さん…とってもね、良い人なんだ。寺嶋さんって言うの。私よりね、10歳くらいは下なんだけどさ、優しいんだあ。見てるだけで、声を聞くだけで癒されるんだよ…話せたら最高なんだ…」
母は焦点が合ってないような目で、黙って外を見ている。
何かを見ているのか、ただ向いてるだけなのかは知らないけど、私はその日から寺嶋さんのことを話していた。
話をしたからといって、何かが変わるわけでもないんだけれど、不思議と話しているうちに自分の気分も明るくなっている。
「私さあ、寺嶋さんが好きなんだろうね。片思いだけど…好きなんだ」
「好き?」
「ふふふ…母さんも好きだよ」
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