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遊んでいる…。狩りを、楽しんでいる。
獲物の動きに合わせて自身の動きを変え、常に一定の距離を保った上で、徐々に獲物が消耗するのをはたから眺めて待つ。
随分と悪趣味だとは思うが、今はそんなことはどうでもいい。
このままだとこちらが先に力尽きてしまう。どうにかしないと…。
そう、頭の中で打開策を練り上げようとすると…。
背中に突然、車に跳ねられたんじゃないかと思うほど大きな衝撃が走った。
「がっっ……ッ」
そのまま、勢いに任せて吹き飛ばされ地面を転がる。背中はもちろん、地面に体を打ちつけた衝撃で身体中に、鈍い痛みが走る。
打開策を考えようとした矢先の衝撃だった。何が起こった…。そう思い、おもいきって後ろを振り返った。
「……ッ!」
そこにはあの獸がいた。問題は距離だ。あの獸はついさっきまでトラックニ台分の距離を保っていたはずだ。それが、今は自分のすぐ目の前にいる。
先ほどの衝撃の正体は、何のことはない。目の前にいる獸が突進してきた、ただそれだけだったのだ。
おそらくこいつは気にくわなかったのだろう。獲物が捕食者を出し抜こうと考えていたことが。
獸があの距離を保っていたのはただ単純に、獸にとってあの距離が自身の、絶対の攻撃範囲だったのだろう。
化け物だ…。出し抜こうなんて到底無理な話だったんだ。俺は逃げていたんじゃない、ただ闇雲に足掻いていたにすぎないのだ。
俺の心に、絶望が落ちた……。
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