無くした光

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だが、同時に俺の心には微かな希望が浮かんできた。 いつの間にか森を抜けていたらしい。辺り一面に、草木は一本もなく、生き物の姿もない、そんな殺風景な場所にそれはあった。 崖だ。 俺が奴から逃げることの出来る唯一の、救い。 俺は頭にそれが思い浮かぶよりも早く行動に移した。そのまま体を起こし、クラウチングスタートのような体勢で思いっきり地面を蹴り上げる。 急激な運動で軋む体がさらに大きく悲鳴を上げるが、無視した。 崖に向かって飛び込むなど正気の沙汰ではないが、今の俺にはこれが生き残る最善の手段なのだと、本能で理解した。 獸がその行動に気づき、止めようと動き出す気配があったが不思議と体は前へ、前へと進んでいた。 恐れはない、この絶望から逃げ出すためなら腕の一本や二本、喜んで差し出してやる。 「とどけえぇぇぇぇっ!」 俺は少しも躊躇することなく、一切の常識が通用しない奈落の底へと身を踊らせた。
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