第一章 日常から崩壊への道筋

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『歌』が終わる頃には奥にある貸し出しのためのカウンターにつくことができた。 そこに詩織さんはいつものように座っていた。 黒の長髪に赤を基調にした着物を着た女性。 俺より年齢が上なのは確実だが、十代と言われても三十代と言われても信じそうなんだよな。 外見は若々しいけど、大人びているからかな。 「おはようございます。詩織さん」 「あら。仁さんですか。おはようございます」 「さっきの歌って桃太郎ですよね」 「あ、聞こえてました?」 「まあ、ここってそんなに広くないですからね」 実はわざと迂回して、最後まで歌を聞いてたんだけどね。 詩織さんっていつも図書館の右奥にある前には貸し出しカウンター用の机、後ろは壁で作られた『中』で椅子に座ってるから、出入り口からうまく本棚を使えば、気付かずに接近できるんだよね。 「今日は学校では?」 「休校なんです。だから、まあ、その…………」 「?」 一日中一緒にいれますとか、言えねえよな。恥ずかしすぎる。 「仁さん、服が濡れてるように見えますけど…………まさか傘さして来なかったんですか?」 「あ、あはは…………、その、このくらいなら大丈夫かなっと思いまして」 「まったく。風邪ひきますよ?」 詩織さんは微笑みながら、引き出しの中から白のタオルを出して、 「とりあえずこれを。暖房、上げたほうがいいですよね」 「その、すみません」 「気にしてませんよ」
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