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『歌』が終わる頃には奥にある貸し出しのためのカウンターにつくことができた。
そこに詩織さんはいつものように座っていた。
黒の長髪に赤を基調にした着物を着た女性。
俺より年齢が上なのは確実だが、十代と言われても三十代と言われても信じそうなんだよな。
外見は若々しいけど、大人びているからかな。
「おはようございます。詩織さん」
「あら。仁さんですか。おはようございます」
「さっきの歌って桃太郎ですよね」
「あ、聞こえてました?」
「まあ、ここってそんなに広くないですからね」
実はわざと迂回して、最後まで歌を聞いてたんだけどね。
詩織さんっていつも図書館の右奥にある前には貸し出しカウンター用の机、後ろは壁で作られた『中』で椅子に座ってるから、出入り口からうまく本棚を使えば、気付かずに接近できるんだよね。
「今日は学校では?」
「休校なんです。だから、まあ、その…………」
「?」
一日中一緒にいれますとか、言えねえよな。恥ずかしすぎる。
「仁さん、服が濡れてるように見えますけど…………まさか傘さして来なかったんですか?」
「あ、あはは…………、その、このくらいなら大丈夫かなっと思いまして」
「まったく。風邪ひきますよ?」
詩織さんは微笑みながら、引き出しの中から白のタオルを出して、
「とりあえずこれを。暖房、上げたほうがいいですよね」
「その、すみません」
「気にしてませんよ」
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