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歩いて五分ほど経った頃だったか。
誤魔化しのために『しおラーメンが美味しい店がある』なんて言ってしまった俺は内心焦っていた。
というのも、美味いラーメン屋なんて一軒しか知らないからだ。
一軒知っていれば十分…………なんてことにはならない。
この『一軒』にだけは頼りたくなかった。
だが、詩織さんにそこらの安いだけが自慢のラーメンなんか食わせられるわけがない。
なので、
「ここがしおラーメンが美味しいお店なんですか?」
「…………はい」
最終的にはこの『一軒』に頼らざるを得ないということ。
別に店主が嫌いなわけではない。どちらかと言わずとも好きだ。
値段が馬鹿高いわけでもない。
店主が『安くて美味いのが自慢』と言うだけのことはある。
なら、なにが問題なのか。それは―――
「それでは入りましょうか」
「あ、待って! 心の準備を―――」
結果を言うと手遅れだった。
詩織さんは『十六夜ラーメン』の扉を開いていた。開いてしまった。
「いらっしゃ……い、ませ……?」
「よ、よお。繁盛、してるみたいだな」
店員の一人がこちらを見て、固まった。
黒のポニーテールに店のロゴ入りの服を着た少女…………、というか幼馴染み。
「十六夜。いつまで固まってるん―――」
「死ね」
「お、おま、それはいきなりすぎねえか!?」
「当店は女連れの仁は受け入れられません。ご了承ください」
「丁寧にピンポイントで俺を狙い撃ちじゃねえか!?」
「どこで拾ったか知らないけど、さっさと元いた場所に戻しなさい」
「詩織さんを捨てられてたペットみたいな扱いすんなよな!?」
ったく。
だから連れてきたくなかったんだよ。
まあ、悪い奴じゃないんだけどさ。
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