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なにがなんでも十六夜を黙らせよう。そう決心した時だった。
静さんが空席を見つめ、
「あれ? これって…………」
「どうしました?」
「仁たちが修羅場だった時にお客さんが帰ったんだけどね」
静さんは空席の上に乗っている古びた掌サイズの巾着袋をつまんで、
「これを忘れていったみたいなの」
「俺が届けてきましょうか? そこに居たのって桃色のワンピース着た女の子でしょ?」
入ってきたとき、一人だけ客がいたから憶えてたんだよな。まあ、今日は珍しく客が少ないのと、このクソ寒い時期にワンピースなんて格好でうろついていたっていうのが印象的だったからかもだが。
「それじゃあ、頼んでいいかしら?」
「はい。ちょちょっと届けてきますよ」
そんなわけで、古びた巾着袋を受け取り、詩織さんに一言声をかけてから、俺は『十六夜ラーメン』を出て、周囲を見渡すが、
「チッ、桃色のワンピースなんて目立つからすぐ見つかると思ったんだけどな」
そう都合よくはないようだ。
さて。どうすっかねえ。
「そこの少年。どうやら困っているみたいだな」
ゾクリ、と。
冷水でも浴びたかのように、全身が震えた。
なぜだかわからないが、突如聞こえてきた女の『声』に体が拒否反応を示した。
黒板を引っ掻く音のように。
部屋の隅にできた闇のように。
肉食獣の遠吠えを聞いた時のように。
五感以外の感覚、第六感とでも呼べるものが警告を発していた。
―――『関わるな』、と。
「いいことを教えてあげよう」
と、そこまで感じてから、ようやく気付いた。
『彼女』はどこにいる?
「キミが探している桃色のワンピースを着た少女だが」
声は聞こえる。
だが、周囲を見渡しても、近くにいるのは甲冑姿のワサビ持った老人に、小学校指定の体操服を着てイヌミミつけた小学生に、ピエロみたいな化粧をしているナース服姿のおっさんに、全身白タイツの女だけだった。
………………あれ? 変人しかいねえぞ。
「路地裏に入っていってたぞ」
「…………ああ、そうっすか」
なんだろう。周りの変人共のインパクトが強かったからか、どっかからが聞こえる女の声―――どーでもよくなってきたな。
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