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『それ』は強靭な肉体を持った化け物だった。
『それ』は頭から二本の角を生やした化け物だった。
『それ』は有名な妖怪に酷似した化け物だった。
「な―――ッ!!」
『それ』は『鬼』に似た化け物だった。
「おいおい。せっかく楽しんでいたってのに、哀れな目撃者登場かよ」
三メートルを超える全身赤褐色の化け物は巨大な手になにかを握っていた。
しなやかな女性の姿をした『人間』を化け物は握り締める。
「が、かはがは、ごぼッ!!」
軋む。
『桃色のワンピースを着た少女』の体から破壊音が鳴る。
「ふざ、ふざけんなよ、くそったれが!!」
気がついたら叫んでいた。
目の前の『異常』に反射的に怒りが溢れ出すのを感じる。
『鬼』の手の中には探していた桃色の少女。
自分より一、二年下らしい外見の少女が傷つけられるのを黙って見てられるかよ!!
と、義憤にかられた直後の出来事だった。
ギチギチギチバキゴキゴギベギッッッ!!! と、少女を握り潰す音が俺の鼓膜を刺激した。
それだけで先程までの怒りが飛び散ったのを自覚した。
目の前の『異常』が俺の思考を塗り潰していく。
なにかをしなければ少女は死ぬ。 ここで動かなければ、死んでしまう。
今、あの少女を助けられるのは俺だけ。 それがわかっていながら、踏み出せなかった。
『死の恐怖』が俺を縛りつけていく。
「心配するな」
人体を握力のみで破壊していくという『異常』に、思考がバラバラと砕けていく俺の耳に『鬼』の声が届く。
「オレの狙いはこの女だけだ。目撃者は消すなんてことをするつもりもない」
「な、にを…………?」
「鈍い奴だな」
怪物の手の中で少女が壊れていくのを呆然の眺めていることしかできない俺に化け物はこう言った。
「邪魔さえしなければ、貴様は見逃してやる。オレはこの女をじっくり殺せれば、それでいいからな」
「…………ッ!!」
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