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化け物の言葉が俺に染み渡る。 『なにもしなければ、助かる』という一つの『救い』が俺の動きを封じる。
ここはじっとしていれば無事に生還できる。そうしなければ殺される。
なら、なにもしなければいい。
それが最善なのだから。
しかし、これは、もう一つの側面を持っている。
俺だけは助かる。そう、俺『だけ』は、なのだ。
少女は殺されることに変わりはない。
そこまで考えて、俺は弱々しく首を振っていた。
―――あんな化け物に狙われる理由があるあの女が悪いんだ。
必死に言い訳を考え続けていた。
―――俺は悪くない。俺があんな化け物と関わる理由なんか、一つもねえだろうが!!
俺は首を振り、歯を食い縛り 、必死に自らに言い聞かせていた。
そう。
言い聞かせていたのだ。
この状況で。目の前にあの女の『声』とは違う、わかりやすい力が与える恐怖に足がすくみ、歯はがちがちと震え、呼吸さえうまくできていないくせに。
未だに俺は言い聞かせていたんだ。
未だに俺は少女を見捨てることができていなかったんだ。
そして。
なんの前触れもなく。
ブシュ、と。 液状のものが飛び出た。
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