第一章 日常から崩壊への道筋

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霧島は視界が狭まっていくのを感じていた。 意識は半ば混濁し、正常な思考を維持することさえできていなかった。 だからだろうか。 右肩、いや右腕が切り離された状況で元凶である『鬼』に立ち向かおうとしているのは。 普通なら心が折れていた。 肋骨が折れるくらいの傷なら、痛みで我にかえり、怯え、立ち止まっていたかもしれない。 「殺らせてたまるか」 だが、右肩粉砕なんて大きすぎる損傷は霧島を狂わせていた。 「テメェみてえな化け物に、その女を殺らせてたまるかってんだァァァああああああああああああああああああああ!!!!」 右肩から溢れ出す激痛を異常な量分泌される脳内麻薬(エンドルフィン)がねじ伏せる。 だから正常な判断ができなかった。 その足を一歩、踏み出してしまった。 その勝てるわけがない化け物に立ち向かうという明確な行動。明確な悲劇に続くであろう道を歩むという行動。 そんな行動が単純な結果を生み出す。 一歩踏み出した少年は次のような結果と直面する。 『鬼』の暴力が霧島仁という生命を粉砕するという現実と。 普通に考えれば、この結果は当然のものだった。 体格も腕力も劣る霧島が体格も腕力も勝る化け物に勝てるわけがなかった。 その胸の中にどれだけ素晴らしい想いを持っていようが、チカラの差がひっくり返るわけではないのだから。 強き者と弱き者。 両者がぶつかれば、どちらが勝つかなど、誰にだってわかるものだ。 だから『鬼』の暴力は霧島仁の肉体を文字通り『粉砕』し。 その手に握られている少女はいずれ殺される。 それは単純な結果であり。 避けようのない運命であるのだ。 だから、次の瞬間、肉体を破壊する轟音が炸裂したのも、単純な結果の積み重ねでしかないのだろう。
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