第二章 たった一人の軍隊

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結果を言うとキスしなくて済んだ。 静さんが来てくれなかったら、終わってたな。主に貞操的な意味で。 「ほら、急ぐよ仁っ」 着替え、身なりを整えた十六夜が俺の手を握って走り出す。 親父さんと静さんに見送られ、家を出て、十六夜に引っ張られる形で走ること数十分。 ようやく高校の校門に辿り着いた。 「もうちょっとで二時間目だな」 「ギリギリ間に合ったし、いいでしょ」 校門を通り、校舎に入り、生徒用の下駄箱でシューズに履き替えていると、先に履き替え終わった十六夜が片手をあげて、 「先行ってるよっ」 「ん、おう」 返事した頃にはすでに走り去っていた。相変わらず、陸上部も顔負けの速さだよな。 「あと二分も猶予あるし、のんびり行けばいいのに」 この場合は二分『も』じゃなくて二分『しか』か? そんな風にぼんやり考えていた時だった。背後からどこかで聞いた声が聞こえたのは。 「あれ? あなたはあの時の―――ッ!?」 「?」 振り向くと、そこには薄い銀の髪をした少女が立っていた。 空色の瞳が驚きからか見開かれている。 「…………、あんた、このクソ寒い中『桃色のワンピース』なんか着てた女かっ」 「いつだってファッションに気を配るのは女として当然のことなんですっ」 「いやそんなことより…………無事だったのか?」 俺の問いかけに少女は曖昧に笑った。 昨日、『鬼』なんていう化け物に握り潰されそうになっていた少女が俺の前にいた。 …………よかった。この子が無事かどうか『だけ』が気がかりだったんだよな。 「それはあたしの台詞です。あなた、いえ、『光り輝く女』は―――何者なんですか?」 「なにを言って…………?」 「あの化け物はなんなんですか。どうしてあなたは生きているんですか! どうしてあたしが襲われたんですか!!」 噛みつくように。叩きつけるように。糾弾するように。 そう叫んだ少女は最後に絞り出すようにこう言った。 「どうして、あなたは逃げなかったんですか…………ッッ!?」
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