第一章 日常から崩壊への道筋

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1 「ふざ、ふざけんなよ、くそったれが!!」 黒の学ランの下には黒の肌着、左手の薬指にはシンプルな黒の指輪。 そんな全身黒ずくめの少年、霧島仁が暗い路地裏で、吐き捨てるように叫んだ。 目の前には、頭に二本角、虎の毛皮の褌を腰に纏った三メートルを超える化け物が佇んでいた。 一言で表すなら『鬼』。 霧島の正面に立ち塞がる怪物の右手には桃色のワンピースを着た少女の腰が握られている。 ギチギチギチバキゴキゴギベギッッッ!!! と、少女を握り潰す音が霧島の鼓膜を刺激する。 (く、そ…………なにやってんだよ、俺) 目の前の『異常』が霧島の思考を塗り潰す。 なにかをしなければ少女は死ぬ。 ここで動かなければ、死んでしまう。 今、あの少女を助けられるのは霧島だけ。 それがわかっていながら、踏み出せない。 『死の恐怖』が霧島を縛りつける。 「心配するな」 まるで猛獣のような声色だった。 『鬼』が言葉を紡ぐ。 「オレの狙いはこの女だけだ。目撃者は消すなんてことをするつもりもない」 「な、にを…………?」 「鈍い奴だな」 怪物の手の中で少女が壊れていく。 今、少女がどうなっているのか。 霧島にはわからなかった。 いや、そうじゃない。 彼はその『現実』から目を背けていた。 『少女が壊されていく現実』を見据えることを本能が拒否していた。 「邪魔さえしなければ、貴様は見逃してやる。オレはこの女をじっくり殺せれば、それでいいからな」 「…………ッ!!」
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