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「ふざ、ふざけんなよ、くそったれが!!」
黒の学ランの下には黒の肌着、左手の薬指にはシンプルな黒の指輪。
そんな全身黒ずくめの少年、霧島仁が暗い路地裏で、吐き捨てるように叫んだ。
目の前には、頭に二本角、虎の毛皮の褌を腰に纏った三メートルを超える化け物が佇んでいた。
一言で表すなら『鬼』。
霧島の正面に立ち塞がる怪物の右手には桃色のワンピースを着た少女の腰が握られている。
ギチギチギチバキゴキゴギベギッッッ!!! と、少女を握り潰す音が霧島の鼓膜を刺激する。
(く、そ…………なにやってんだよ、俺)
目の前の『異常』が霧島の思考を塗り潰す。
なにかをしなければ少女は死ぬ。
ここで動かなければ、死んでしまう。
今、あの少女を助けられるのは霧島だけ。
それがわかっていながら、踏み出せない。
『死の恐怖』が霧島を縛りつける。
「心配するな」
まるで猛獣のような声色だった。
『鬼』が言葉を紡ぐ。
「オレの狙いはこの女だけだ。目撃者は消すなんてことをするつもりもない」
「な、にを…………?」
「鈍い奴だな」
怪物の手の中で少女が壊れていく。
今、少女がどうなっているのか。
霧島にはわからなかった。
いや、そうじゃない。
彼はその『現実』から目を背けていた。
『少女が壊されていく現実』を見据えることを本能が拒否していた。
「邪魔さえしなければ、貴様は見逃してやる。オレはこの女をじっくり殺せれば、それでいいからな」
「…………ッ!!」
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