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お互いそれを食べ尽くし、紅茶を飲んで一息して。
もう一杯くらい沸かそうかな、と私が台所に立った時、少年はようやく口を開いた。
はじめは礼。続いてお礼。またお礼。
そして、一度漏れた言葉は閉じることなく。
ポツリポツリと、少年の口から溢れ出す。
曰く、彼は亡国の王子らしい。
反乱の起こったとある国から、母と護衛とワンコロと命からがら逃げてきたらしい。
そうして追手に追われながら、たどり着いたのがこの森で。
途中でバラバラになっちゃって、一人で走って走って走り続けて。
お腹もすいて走れなくなり、倒れていたら私が来たとのことらしい。
はじめに何も話さなかったのも、私が国にチクリそうで怖かったとか。まあ、そんなことはまずないけどね。
だって私、この国に税なんて納めたことねーし。
たぶん国のうんたらが来た途端、私はきっと牢獄行きさ。一応
私、魔女みたいだし。
「ま、気にしなくていいよ。なんせ死んでたらそのまま置いとくつもりだったからね」
竈に再び火を灯し、ポットで再び湯を沸かす。
何度も感謝されるというのは、初めてだからか少し照れくさい。
私は少年の方をみないまま、愉快な気持ちで紅茶を入れる。
お湯沸いた。葉っぱオーケー。蒸らしもそこそこ。今度はしっかり温かく、飲めばきっとおいしい紅茶。
カップに砂糖を二つ入れ、くるくる回して出来上がり。
「あの……お姉さん。お願いがあるんだ……」
「んー。なに? 言ってみなさい。聞いてやろう」
なんだかとっても良い気分。
人と話をするというのはどうにも、愉快な気持ちになるんだなー。
ご機嫌ご機嫌、超ご機嫌。
すばらしきかな解放感。
なんだかとっても楽しくて、紅茶もおいしく素晴らしい。
冷たくなったクッキーを齧る。
温かい紅茶が美味しく丁度いい。あれ、これ結構ありなのかも。
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