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誰にでもできる仕事。
私じゃなくても誰かができる仕事。
頼まれたことを進めるだけの仕事。
イベントの手伝いだと聞いて張り切って出かけた今日のバイトも
いつもと同じそんな内容だった。
「有名なプロデューサーにいきなりスカウトされたりして」
もしかしたらと考えてメイクにもコーディネイトにもいつもより時間をかけたけれど、
もちろんそんな事もなかった。
私にしかできない仕事、私が必要だと思う人は居るのだろうか?
私を見てくれる誰か、私を必要としてくれる誰かと会いたくてたまらない。
真っ直ぐ帰宅する気にならなかった私はぐるぐる回る緑の電車を降りた。
混雑する改札を抜け、日の暮れた道を駅に向かう人波に逆らい、
店先で品定めをしているグループを避け、
街灯りの中でフラワーショップの横にある小さなエレベーターのボタンを押す。
小さくてかわいいエレベーター、多分4人で満員。
「こんばんは」
エレベーターの動く音を聞いたのだろう。
私を迎える香里さんの声を聞きながらドアを開けると
カウンターで飲んでいる弘志と眼が合った。
待ち合わせた訳ではないけどやっぱり彼はいてくれた。
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