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「こんばんは。また来ちゃった」
私は香里さんとマスターにあいさつをしながらほっとした気分で彼の隣に腰を降ろした。
火曜日の夜、客の姿は奥にあるテーブル席に座るサラリーマン風の二人連れだけだ。
持っていたグラスをカウンターに降ろした弘志が笑顔で話しかけてくる。
「真弓聞いてくれよ。この前書いた記事の評判が良くてさ、また取材頼まれたんだ」
私は小森真弓、大学を卒業して1年、半年前までは社会人だった。
彼は河村弘志、大学時代のサークル仲間、恋人ではないけれどただの友達でもない。
細身の体に短髪の黒髪、思いこむと暴走することはあるけど人は良い。
意志の強そうな黒目の大きな目と引き締まった口元がそんな性格を表している。
学生時代マスコミ研究会でディペートグループのリーダーをしていた私は、
別のグループのリーダーだった彼とよく討論した。
卒業記念にサークルの仲間が集まって作った映画では、彼が監督で私が脚本担当。
それから続いているなんとなく気持の許せる関係。
小さな雑居ビルの3階にあるこの店は、
やさしい目をしたマスターと奥さんの香里さんが二人でやっている。
レストランなのかバーなのか、昼はランチがあるし、夜になるとお酒も飲める。
学校からも近いターミナル駅にある店だし、サークルの仲間や昔からの友達がよく集まっている。
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