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窓に張り付く雨粒が大きくなって、耳に届く雨音が大きくなるのを感じた雅人(まさと)は、小さく、今にも握りつぶしてしまいそうなほど細い手に、まるで羽にでも触れるかのような優しさで……それでいて、手慣れたさじ加減で優しく、握る手に力を込めた。
――もう少しだけ、寝かせてやってくれよ……
そう祈りながら、まるで天敵でも見つけたかのような表情を浮かべ、キリリと綺麗な流線を描く眉を顰めて、窓の外を睨みつける。
けれどそんな雅人の願いと睨みも空しく、無意識に繋がれた手を握り返しながら、深月(みづき)の瞼は緩やかに開いた。
長い睫が小さく震えながら、弱弱しく持ち上がる。
その様子を具に観察しながら、雅人は深月に知られぬように薄い唇を歪めた。
「……今、何時?」
「4時」
目覚めてしまった深月を残念に思いながら、左手を繋いだまま右手を深月の額に正人は伸ばす。
習慣づいたその行動に、深月は抵抗なく目を軽く閉じて受け入れた。
「熱、下がった?」
「だい、じょうぶ」
「一応、計ろう」
体温計を取りに行こうと立ち上がったと同時に、繋がれた手が離れる。
それに慌てた深月は、手を差し伸ばして雅人のシャツにしがみ付いた。
「やだ、行かないで……」
「――分かった」
雨脚が激しくなったことに気づいて、慌てて雅人はまた同じ位置に腰を落とす。
それから左手を差し出して、いつ折れてもおかしく無いようなか細い手を、いつもと同じように握りしめた。
まるで、温もりがこの手を通して彼女に移りますようにと願うように。
「ミヅ……もう少し、眠れない?」
尋ねると、小さく頭を振る。頭を振りながら、雅人を乞う癖に、それでも甘えることが不得意な深月は、いつもと同じことを言った。
「大丈夫。死んだり……しないから」
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