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「ミヅ、忘れたい?」
「……」
「抱いて、あげよっか」
それが自分のためでもあることを感じながら、雅人は気が付けばそんなことを口にしていた。
光希は腕を切った後、集中治療室に搬送されていた。
意識が戻らないけれど、それはけがによるものではないと説明を受けている。
心の問題、そんなことを言われて雅人が呆然としたのは、ほんの少し前のことだ。
そのことに深く落ち込み、もう2度と光希には触れない……そう言って、何度も懺悔したい気持ちだった。
自分がそうすることで姉の意識が戻るなら何でもする、そう思うほどの強く光希を取り戻したい気持ちを持て余していた。
しかし現実は懺悔も後悔も、何もかも。雅人がどう思おうと感じようと、何も変わらない。
バラバラになってしまったピースは、組み合わせ方が分からなくなっている。
家族の誰もが、雅人を責めても良いものかと思案する一方で、どうして光希をこんな目に遭わせたのかと恨む気持ちを、どこか隠し持っている気がする。
お互いが奇妙な遠慮と腹の探り合いが続くような状況となってしまい、居た堪れなくて、耐えられなくて、家を飛び出した。
けれど行く当てもなく、何かを成し遂げたかったわけでもない。
ただの学生の身分である自分は、学校生活をこなすくらいのことしかできずにいたところ、今日の集まりに呼びつけられた。
そんな雅人が、偶然にも深月を見つけた。
止まった時が動き始めたように、また世界に色が付いた気さえした。
そして瞬時に思ったのだ。俺はこの人だけは、絶対に守ると――例え、幸せにするのは自分ではないかもしれなくても。
それでも、この人だけは傷つけたりしないし傷つけさせないと、固く誓った。
光希の代わり……そう言われても仕方がないけれど、現実逃避が雅人を加速度的に、懺悔の対象を深月へとすり替えていった。
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