朝雲暮雨

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 強い決意を表わすようににぎゅっと腕に力を込めると、腕の中にいる深月は小さく震えた。  雨が地面を強く叩きつけるほどの、激しく降る雨の音が、耳に聞こえる。  「雨が……」  「え?」  「雨が、嫌いなの」  震える声で絞り出すようにそう漏らすと、深月は雅人にギュッとしがみ付いた。  何を言い出したのか分からない。  けれど震える深月の肩を、雅人はただただ優しく包んで、温もりを分け与えるようにより沿った。  「私を……私を、壊して……何も感じなくていいように。何も聞こえないように」  深月から壊してと言われた瞬間、雅人は胸が痛んだ。  自分はすでに、姉の光希を壊してしまったのだ。  そんな雅人が、護りたくて止まない深月を壊したいわけがない。  けれど、気持ちが先行しすぎる思考にストップをかけ、深月の言いたい言葉の真意を、汲み取ろうとゆっくり呼吸する。  周囲に視線を巡らせ、窓に張りつく雨粒を見つめて、これが深月を苦しめているのだと理解した。  見下ろすと、一層けたたましい音を立てて降り出した雨の音に、深月がまた震えている。  壊して――その意味を正しく受け取ることが出来た雅人は、深月の為ならば何でもしてやるという強い想いから、ぎゅうっともう一度力を込めて抱きしめて、答えた。  「分かった」  深月を守りたいのか。  自分を守りたいのか。  どうしてこうなってしまったのか、なぜ自分がこんなことをしようとしているのかは分からない。  もしかすれば、姉の光希に深月をすげ替えて、ただ男として抱きたいだけかもしれない。  言い訳を並べて、男の欲を満たしたいだけかもしれないとの葛藤も、頭の中がチラついている。  けれど震えてギュッと目を瞑る深月を見るとどうでもよくなってしまい、ただただ時の流れに乗るように、雅人は冷たいフローリングの上に深月を押し倒した。  
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