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ザーザーと雨の降る音が、2人を包んでいて、世界中には2人だけしかいないような、そんな気にさせるほど、雨のベールに囲まれていた。
いつもなら、深月の耳にこびりつくのは雨の音ばかりなのに、今この時は、2人の呼吸だけしか届かない。
そして感じるのは、互いの温もりだけ。
雅人が触れると小さく深月は身体を震わせ、ピクンと跳ねるとさらに優しく触れられる。
初めての行為に、これは何なんだろうと、思考があちこちに飛ぶのにまとまらない。
おまけに、そうされる毎に深月の口から洩れる声は熱くなり、体も熱を孕み始めた。
それが怖くて、でもどこかで安堵もする。
しかし、どこかでまだ先生の想いが絶ちきれず、裏切る行為をしている気持ちが見え隠れして、無意識のうちに深月は零した。
「優しく、しないで――」
自分を大事に……というよりも、先生とだけと思い込んでおいていたバージン。
捨てようと思えばできたかもしれない。
それでも先生だけを望んで生きていたから、誰かとこんなことをする日がくるなんて考えもしなかった。
それなのに今は、何もかも捨てたい気持ちが心身に満ちている。
体も心も何もかも。
奪ってしまってくれるなら、奪って欲しい。
この行為が、雅人を利用した都合のいいことだとは思うけれど、きっとこの人は自分に悪いことをしないと、どこか信頼する気持ちもあった。
そんなことを脳裏に思いながら、触れる手に頭の中が隅々まで霞んでいく。
雅人の触れる手は、優しくて仕方がない。
柔く包むように胸に触れる指先は、まるで深月を愛しんでいるかのような錯覚さえ起こさせる。
その錯覚さえも怖くて、今までの自分をも裏切るような気がして……優しさは、まるで深月にとって罪のように思えて、むしろ苦しかった。
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