朝雲暮雨

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 問いかけると、戸惑うように目を潤ませてから、こくんと頷く深月。  光希にはないその態度が、彼女が深月であると感じさせるのに、雅人はこの時無性に可愛いと思った。  深月のことを――少しは、愛を持って接することができるだろうか。  そんな雅人の心境を知る由もない深月は、また一つ雅人に近づいた思いもあり、期待と興奮半分、怖さ半分で深月は震えそうな手を必死に伸ばした。  雅人の頬へぺたりと手を這わせると、先ほどよりも優しさと慈しみを深めた雅人の目が下りてくる。  その伸ばされた、深月の冷えた手の平に雅人は顔を摺り寄せると、切ない表情で深月を見下ろす。  どちらの顔も、まるで幸せさからは程遠い。  ただ、目の前の温かさに、縋ることばかりを求めているようだ。  「いいの?」  止まらないと思いつつも雅人が尋ねると、小さく頷く深月。  それを確認してから、雅人は手にした袋を破いた。  準備をしてから深月の身体を撫でまわし、額にキスをする。  「ごめん。俺……」  呟きながら唇を離し、深月の瞳を覗き込む。  すると何もかもわかったような顔で小さく頷いて、深月は何も言うなと目で訴えた。  分かっていた、雅人の思っていることを。    きっと雅人が感じているだろう、何もかも。  それでも深月は今、雅人を受け入れたいと思った。  「唇には、キス、しないで」  ――取っておいたからって、どうなるの?  言ってしまってから、自分のことを自嘲気味嗤う。  それでも言った言葉を撤回できずに雅人から目を逸らすと、唇を隠した手のひらに、また一つ優しく唇が落された。  そのまま秘所に雅人の熱をあてがわれるのを感じ、目を瞑る。  そうすると瞼の裏に、どうしてか先生の顔が見えた気がした。  その途端、悲しくもないのに、目じりに涙が浮かんできた。  「ミヅ、ごめん」  一言謝ると、それでも雅人は容赦なく、自身を深月の身体に突き入れた。  
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