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その先は、2人の記憶が曖昧になるほど、身体を繋げた。
雨の音が外界と部屋との世界を遮断して、まるで2人だけの世界に隔離されたかのように、錯覚するほど――
漏れる吐息。
震える体。
触れて感じて、思考をぐちゃぐちゃにする。
ただ、目の前の身体を貪るように抱きしめあい、手を伸ばした。
深月の身体は痛みを感じたが、それもどうでも良かった。
ただ現実の世界から目をそむけていられるのなら、それで十分だった。
思考の片隅から、先生さえ消えてくれていれば。
雨の音さえ気にならなければ。
深月はただ、雅人という身体に覆われて、そのまま閉じこもることができれば。
それで満たされていた。
それほど自分のことばかり考えていた深月だけれど、雅人が夢うつつに漏らした言葉が、胸に鋭く刺さった。
「好きだ、ミ……キ……」
意識が途切れる間際、耳元に聞こえたのは『ミツキ』か『ミヅキ』か分からない。
けれど、どう考えても自分であるはずがないと考えた深月は、自分のためにまた自らを苦しめただろう雅人に、申し訳ない想いが広がった。
繋がった直後から、眦に溜まったまま止まっていた涙が、ポタリと落ちる。
――先生……
結局、一次の逃避行では、深月の胸の中から先生は消えなかった。
そしてまた、深月の隣で眠る彼も同じだろう。
誤魔化すことは出来ても、消えることなどない存在。
逃げた先の代償は、ただの罪悪感。
それを背負わせてしまったことへの後悔。
深月は眉根を寄せて彼を見つめると、もう二度とこんな逃げはしないと固く誓って、瞼を閉じた。
繋げた身体だけがただ、じくじくと奥底から傷みを訴えていた――
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