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翌朝。
目が覚めた雅人もまた、涙を流しながら眠った様子の深月に気が付き、顔を顰めた。
自身の身体の高ぶりと、やはり光希を深月に乗せて抱いた感が否めない罪悪感。
相手の逃避願望に乗っかって、自分がいいように抱いたのではないかという思いが、落ち着いてみてまた蘇ってくる。
「ごめん、ミヅ……」
そっと呟くように告げると、眉根を寄せて横を向く深月。
まだ目を覚まさない様子の深月に安堵して、雅人はさらりと深月の額を撫でた。
外には、まだ強さを増したままの豪雨が、ガラス窓を叩きつけて、豪快な音を立てている。
「せめて、まだ寝ててくれよ」
自分が彼女を抱いたことで、少しは忘れられたのだろうか。
それとも、大事な身体をまっさらではなくしてしまったことを、後悔していないだろうか。
唇にキスはしないで――そう告げた時の、苦しそうな深月の顔を思い出すと、また雅人は胸が痛くなる。
どうして抱いてしまったのだろう。
後悔したくはないけれど、どうしてもその考えが脳を掠める。
けれど、それで苦しむ自分を見ると、きっと深月をもっと苦しめるだろう。
それが分かるからこそ、後悔だけはしてはいけないと雅人は固く誓った。
そうして――これからの日々を、深月に尽くしたいと衝動的に誓った。
光希の代わりにしてはいけない。
しかし同じくらい、深月だけは大事にしたい。
それくらいは許されないだろうか。
――光希……俺は、姉さんをただ――
その先を、心の中で思うだけすらできずに、きゅうっと固く目を閉じた。
そして、同じ固さで、深月の手を握りしめる。
その硬質でいて、柔らかく、どこか神々しさせえ感じさせるその手を、雅人はただ手放せずにいた。
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