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西暦2016年、12月31日。一人の少年がとある高層ビルの屋上から周囲を見渡していた。
その一帯には天を突くような高層建築物がところ狭しと建ち並んでいたが、彼のいるビルはその中でも格別に大きい。それゆえに、コンクリートジャングルなどと揶揄される首都・東京においても視界を遮られることなく周囲の様子を伺うことが出来た。
──北の空が赤く輝いている。
現在時刻は午後7時36分。大晦日という時期から考えても陽はすでに沈んでいるはずだし、そもそも北に夕陽があるはずがない。では、一体どうしてそんな事が起こっているのか。
その時。彼の眺めていた方向のちょうど反対、南側から強烈な閃光が走った。数秒遅れて、地面を揺さぶるような轟音が襲ってくる。
原因不明の爆発──それによって、次の瞬間には周辺の建物が続々と燃え盛る炎に呑み込まれてゆく。
これが赤い空の正体。全てを炭に変える巨大な炎が、都会の真っ暗な空を照らしているのだ。
少年はその様子を見て、ギリリと音を立てるほど強く奥歯を噛みしめた。自身の非力さが憎い。自身の臆病さが腹立たしい。自身の不甲斐なさが許せない。
俺は──弱い。
自分の無力さを再認識した彼は、それでも俯きかけた姿勢を気力で無理矢理正した。
力が無くても、闘うだけだ。いくら怖くても、立ち向かうだけだ。なにもできなくても、抗うだけだ。
その瞳には光が宿る。悲嘆の表情はすでにない。
それは、紛うことなき彼の『強さ』だった。
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