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「 なんだとはひどい言い種だね。せっかく気のきく祈里ちゃんが暑さで溶けかけてるアサヒを見かねて冷たい飲み物を持ってきてあげたのに。いらないんだね?」
少女、篠宮 祈里(シノミヤ イノリ)は俺の顔の横で水滴の付いたコーラの缶をゆらゆらと動かす。
俺はそれを横目で確認すると、すぐさまさっと姿勢を正して缶を受け取った。
「ありがとうございます、祈里様。このご恩はいつか必ず」
「うむ、期待しておるぞ」
彼女は俺の隣の席に勝手に座り込み、自分用のアイスミルクティーの缶を開けて少しだけ口にふくむ。俺もそれに続いてプルトップに手をかけると、コーラの缶は小気味のいい音を立てて開いた。
吹き出しそうになる泡を慌てて口に流し込むと、体が内側から冷やされていく。
あぁ、生き返る……
「アサヒって、昔から本当にコーラ大好きだよね……わたし、そんなにおいしそうにコーラを飲む人他に見たことないよ」
体に悪いからほどほどにしておきなよ? と呆れ顔で言う祈里。しかし彼女自身だっていつもミルクティーしか飲まないのを俺は知っている。
彼女とは小学校以来の長い付き合いになるが、ミルクティー以外の飲み物を飲んでいる所はほとんど見たことがないと言っていい。
よほど美味しかったのか、しばらく祈里はにこにこしながらミルクティーをすすっていたが、ある時ふと思い出したように俺の方を見た。
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