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「俺もう戻るよ。客が居なくて暇してるっつっても、一応は仕事中だし」
「客なら目の前に居るでしょ」
そういや、客の振りをした果てしなく面倒臭い奴が居たな。
厨房に戻って、結局時間を持て余す。
遠くから見ていたという片桐先輩が、小悪魔的な笑みを浮かべてやって来た。
「お姉さん、前に写真で見せてもらったよりずーーーっと! 綺麗だった!」
「そう……ですか」
褒められる分には悪い気はしないけど、近寄り難い不気味さを漂わせながらふふふと笑う先輩とは距離を取りたいと思う。
冷やかされるのが目に見えている。
「良いお姉さんだね」
「普通ですよ」
「普通だったらここで“普通です”とは言えないよ? それってもう仲良いんだよ。君のこと心配してた」
「姉貴が? あの短時間で何を話したんですか?」
「気になるなら教えてあげよう!」
「まあ、少しだけ」
「うんうん! 素直じゃないけど素直だから許すっ! ……やっぱりさー、お姉さんって凄いと思う」
片桐先輩は興味津々モードから、素の片桐モードにテンションを切り換えた。
「真面目に働いているか、とか。周りと上手く溶け込めているか、とか。それとなくサラっと訊かれた」
普段の姉からは想像も付かないことだ。
「たまたま疲れてたみたいだから、気にもしてないことを聞いてきただけですよ」
「自分が辛い時だからこそ、弟のことが気になるのさ。大切にされてるんだから、大切にしてあげないと、だね? 分らないけどっ!」
「わからないって……痛て!」
なんの前触れもなく、片桐先輩に背中を叩かれた。
「本当に辛い時は、一番短な人の側で甘えたいのが乙女心ってやつなんじゃないかな」
そういうものなのだろうか?
ーー大切にしているつもりはあるけども、大切にされている気はしないんだよな……。
考え事をしていると、お客さんのスパゲッティの追加注文が入った。
テーブル番号を見てみると、追加注文をしてきたのは姉だった。
ケケケケケっ! 嫌味なくらいこれでもかとチーズを多めにしてやった。だけど、美味しく平らげる姉貴の図が目に浮んで、チーズじゃなくタバスコを入れれば良かったと後悔しただけだった……。
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