物憂いな姉

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十時に仕事を終えて家路を辿る。  ……そういや、片桐先輩のアドレス教えて貰ってねぇ!? 後で姉貴に教えて貰おう。別にいいよな、片桐先輩も俺に教えてくれる気だったわけだし。  家に帰って晩飯を食べる。  居間では姉が横になってソファーを独占しながらテレビを観ている。  普段通りの姉との距離感が、今日に限っては実に居心地が悪い。 「片桐って子からメール着たわよ。面白そうな子じゃない。元気で、明るくて……」  “バイト先での話がどこまで本気なのか”をどう訊ねようかと考えている間に、姉が先制をしかけた。不意をつかれたが、無言で居られるよりずっといい。それに、近からず遠からずの悪くない話題だ。 「そういや俺、片桐先輩にアドレス教えて貰うはずだったんだけど、結局教えてもらえてないだんよな。良かったら先輩のアドレスを――」 「自分で聞きな」  喋り切る前に、刺すような鋭さで質問を先回りされた挙句、拒否されてしまった。  機嫌が良いのか悪いのか。  どちらにせよ、こいつには人の話を最後まで聞くという基本的な優しさが欠けている。 「まあいい。こんなことでお前に借りを作ったとか思われたくないし、自分で聞くよ。それはそうと、今晩俺と一緒に寝るとか言ってたけど……冗談? 本気?」 「…………」  こいつは機嫌が悪くなると俺の話を無視する節がある。  優しさが欠けているどころか、人としてのモラルが欠如している。……とは言い過ぎか。今回に限っては、無視したくなる気持ちも分かる。俺だって、出来ることならこんな恥ずかしい質問したくないもん。  無視するってことは、無かったことにするってことでいいよな?  …………よし、オーケーだ姉貴、今回の件はお互い水に流そうじゃないか。
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