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「いいの? よければ会ってみたいよ。ほんとだよ?」
「幻滅しても知りませんけどね。姉貴に“会わせたい人がいる”って話しておきます」
「嘘みたい、ありがとう。よかったらアドレス教えてもらってもいい?」
片桐先輩は携帯を取り出して、
「仕事中に遊んでるのがバレたら怒られるね。見つからないようにしないと」
携帯を隠すように肩を寄せてきた。
壁と俺と片桐先輩で小さな空間を囲う。
片桐先輩が他の仕事仲間と男女関係なくアドレスを交換していたのは知っていたけど、ついに、ついに俺も片桐先輩のメル友になれる日が来た。
意識していたわけじゃないけど、なんとなくこの日を期待してた気がする。
「お姉さんに突然メール送ったら驚かれちゃうから、メールアドレスのことも話しておいてね」
「え? 姉貴にメール?」
片桐先輩の赤外線受信中の携帯に向けて自分のアドレス情報を飛ばそうとする、俺の携帯を打つ手が止まる。
「姉貴のアドレスを送るの? 俺のアドレスは……?」
「ああ、そう言えばまだ教えてもらってなかった! 変だよね、いつもこうして話してるのに。改めて、アドレス送ってもらってもいいかな? お願い!」
一瞬よどんだ空気が、特に悪びれた様子もなくテヘッと笑う先輩の天真爛漫さに救われた。
「……それじゃ送ります」
「うん。ありがとう」
最初に姉のアドレスを送り、次に俺のアドレスを送ろうと――したところで客が来た。
「ごめんお客さん来ちゃった。行ってくるね」
い、いってらっしゃい。早足で向かう片桐先輩の背中を、心の声で見送る。
お客さんが大切なのは分るけど、このタイミングはちと酷い。
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