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恩返しと言うほどではないにしても、“辛い”と言うのなら手助けをしてやりたいと思う。
「じゃー……今晩は私と一緒に寝てくれるってことでいい?」
「力になるとは言ったけど、何故そうなるのか聞いていいか?」
「……寂しい。寂しい寂しい寂しい……。ベッドに入って布団に包まって抱き枕に抱きついてアロマ炊いてバラード流して、でも寂しい」
こんな寂しい奴と一緒に寝たら、何をされるか分ったものじゃない。姉弟だから、最悪の事態はないにしても。
「寝て……くれないの? どっちなのよー!」
姉は凭(もた)れた首を、今度は突き出してきた。危機迫る感じがして、非常に鬱陶しい……。
この感じだと、一度一緒に寝たら、その後もずっと添い寝を求めてきそうだ。
想像しただけで、全身が痒くなって死んでしまいそうになる。
――断ってしまうのは簡単だ。
だけど、それでいいのか?
チカチカと明滅する歩行者マークを前にして、俺は進むべきか止まるべきなのか。
もしも姉貴なら……。
車線の先に困っている俺を見つけたら、姉貴はきっと迷わず渡る。
最終的に、
「寝るだけなら寝てやる。だから、らしくない態度はやめてくれ……」
と根負けしてしまうあたり、俺にはやっぱり姉と同じ血が流れていた。
話が面倒な方向に一段落ついたところで、「こちらがカルボナーラとワイングラスになります」と片桐先輩が品のある動作で、テーブルに品々を並べていく。そしてウインクと仄かな香水の匂いを残して去っていく。
「っつかお前、オーダー取ってたのかよ!?」
「客がオーダー取るのは当たり前でしょ。あんたに頼んだんじゃ、料理が何時来るか分かったものじゃないから言っておいたの」
今はお前と話してんだから、そりゃオーダー出されても厨房まで伝えに行けないわな。主に、お前のせいでな。
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