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僕は二十代半ば頃、山奥の方で一人暮らしをしていた事がある。職場が其処の近くにあるからなのだが。
土壁に障子にトイレも旧式の日本家屋で、買い物一つ行くにしても男坂を往復しなければならない。
そんな辺鄙な地形の借家とは言え、一つだけ良い所がある。借家を少し下った所に瀬戸内海へと続くS川と言う川が流れて居り、夏になると沢山の蛍が一生懸命求愛している様子が窺える。
川の上を輝きながら飛び交う蛍達は、地上の天の河を彷彿させて居り、それは正く『御近所様』も見物に来る程綺麗だった。
今回は、その『ご近所さま』の話。
僕はご近所様に遭遇すると、身体が過敏に反応を示す様で、凍りついたように硬直してしまう。
この時も僕は硬直した。
足音も無くふらっと現れたので、かなり驚いたのが。黒い服に薄幸そうな表情に何かを訴えるかの様な瞳の『ご近所様』
だが。
ご近所様は彼女一人だけでは無かった。或時は、僕の借家に入り込んでいた事もあり、僕が明け渡しをするまで住み着いてしまったのだ…。
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