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温く吹き抜けてくる風がダイレクトに伝わってくる。
白熱灯の街灯はチカチカ光って、何処と無く夜の無情感を醸し出していた。
「マジかよ……」
俺は右手で頭を掻いた。
――あれが夏目亜矢が優等生と呼ばれる所以、転移魔法。
そのコンセプトは想像に難くなく、地点Aから地点Bに物体を移動させる魔法だ。俺も嘗て憧れた、瞬間移動とほぼ同等の代物といえる。
通常なら、数人から十数人程度が集まって行使できるが、それを夏目は一人でやってのけるのだ。
そのため彼女の実力は数年に一人の逸材として高く評価されている。クラスでの二つ名は『処刑人』と称されるほどだ。隠語はマキュラ。
まあ、ぶっ壊れである。実戦授業で彼女と当たると、高確率でワンサイドゲームになってしまう。
打撃は当たらない、魔法は返される、リーチ無視。俺は未だ精神攻撃を交えない戦闘では勝てたことがない。
というか、そんなことは今どうでもいい。
「さて、どこにいこうか……」
宛がなくなってしまった。ここに留まるわけにもいかないし、困ったな。
学校は追い出されたから戻れない。家は言わずもがなで、ネカフェの類いだって近くにはない。金を使うのは論外。
これらを考慮すると、行ける場所は
・公園
・駅
・派出所
と、このくらいか。
うわーい、俺こんなイベント分岐前のギャルゲーの主人公ぽいことするの初めて。録な選択肢がねぇ。クソゲーだな。
とりあえず選択肢は無視して、家に戻ってみよう。もしかしたら余熱(ほとぼり)が冷めているかもしれない。
俺は事故防止のため机を車道の隅に寄せてから、自宅へと足を進めた。
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