桜の記憶

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桜を見る度にそんな感情に襲われるものだから、幼い私は何の疑問もなかったし、いちいちたじろくこともなかった。 ただ自分の名前に由来したものだから、惹かれるのだと勝手に理解していた。 「櫻!」 お母さんはしゃがみこんで、桜に向いた私の顔を自分の方へ向ける。 「お母さんの言うことを聞きなさい」 「でも。でもね、おかあさん。はなしかけてくるのっ」 舌足らずななしゃべり方で言うと、お母さんは怪訝な顔をした。 それはわが子を見る顔とはほど遠い、異星人を見るような目つきで。
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