5人が本棚に入れています
本棚に追加
『久し振りだな、優真』
携帯の向こうから聞こえるのは、凛とした声。
「お久しぶりです。岸間さん」
自分も負けないくらいハッキリとした口調でそう言った。耳元では、微かに聞こえてくるクラシックの音楽と混ざり、何か飲み物を啜る音が聞こえる。
また、この人は愛飲している焙煎コーヒーでも飲んでいるのだろう。電話をするのも久々だが、相変わらず変わっていない。
『長らく連絡していなかったから、懐かしいな。ところで、古崎の様子はどうだ?』
コトン、とコーヒーカップを置く音が木霊する。古崎とは、雪亜の名字である。
「雪亜ですか? 雪亜は元気ですよ。食事もよく食べるし、睡眠も出来てます」
俺がそう言うと、岸間さんはホッとしたように電話の向こうで安堵の息を吐いた。
『やっぱり、あの時……お前に古崎を預けて正解だったな』
どことなく安心した様な、自信満々な様な、そんな声で岸間さんが言う。俺は、ただ言葉を発することもなく、苦笑いを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!