私は誰

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「堅苦しい世の中になったもんだ。」 何気なく呟くその言葉からは若さの微塵も感じられない。一応まだ26だというのに。 そんな事を考えていると令見が一通りの支度を終えて戻ってきた。彼女はこんなに若々しいのに彼氏がこんなくたびれで申し訳が立たない。仕事柄ストレスが多過ぎるのだ、と心の中で嘯く。 事実、この朝の時間が一日で一番落ち着くのだ。何よりも大切にしたいひと時だ。もしも、上司にバレれば悲しい顔をされるだろう。身の安全は保証されていないのだから。 「ごめんな。」 「何が? パンが冷めてること? それとも味噌汁の味が薄いこと? いつものことじゃん。」 平然とそんな風に言う。こっちの気も知らないで… 「いや、違うんだ… ん?今までそんなこと思ってたのか?」 「うん。あとなんで味噌汁とパンという組み合わせにしたのかも聞いてみたい。」 「それはお前、和洋折衷という言葉があってだな…」 「ごちそーさま! ん?何か言った?」 聞いといてそれはないだろう。 「今日のニュースまとめは…」 彼女の考え込む仕草は正直言って可愛い。さっきのは許そう。 「はぁ。まだ年金記憶漏洩についてなんてやってるんだ。何でこんなにマスコミって騒ぎ立てるの好きなの? 私にはわかんないなー。」 「後処理の仕事が嫌だからってマスコミを批判するなよ。向こうも仕事なんだよ。」 はっとした顔で振り返ると、心底安心した様子で、 「さすがだね。分かってらっしゃる!」 などと言ってくる。 可愛いからタチが悪い。 「それより、そろそろ行く時間だろ?」 「うぅ。時が経つのが早すぎる。そっちはいいよね。規則正しい勤務時間で。正しい勤務時間はきちんとした人を育てるんだねー。いってきます!」 「褒め言葉として受け取っておこう。いってらっしゃい。」 さあ、朝も終わりだ。
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