私は誰

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「新しい記憶データの更新が15社ある。あと、記憶喪失の患者に対する大量記憶複製と取り込みの立ち会い、だそうだ。ん?どうしたんだ浮かない顔で。さすがに、この量には参ったのか?」 あなたが来たからです、とは言えない。それに、事実、その量を一人でこなすのは無理だ。記憶データの更新は機械的作業と事務的作業が必要とされる。同時進行で行えば時間は半分だ。15社という膨大なデータの量を考えれば、二人必要という部長の判断は一般的には大正解だ。あくまで、一般的には、だが。 「その記憶喪失に対するなんたらっていうのは何なんですか?」 「あぁ、なんでも、記憶のバックアップをとっていないまま記憶喪失になってしまった患者に大変な思いをして記憶を取り戻す必要がないように、周囲の人間の記憶を大量に複製し患者に関わる記憶をクローズアップしてから取り込むっていう新しい試みらしい。」 なるほど、それは面倒だ。記憶管理システムの新しい試みならばメモリーキーパーが絡んでくる。特別区の人間と確認作業となれば下っ端の俺一人では心もとない。 「しっかし今時、バックアップをとってない人間なんているんだな。」 部長はこう言っているが、今はまだこの記憶管理システムに一般区は馴染んでいない。やはり、頭の中を見透かされているようで抵抗があるとよく言われるのだ。とは言っても、21世紀前半における携帯電話程に普及された今、このままいけば、相当な依存をする事になるだろう。今では携帯電話など無ければ生きてはいけない。後にそうなってしまうのだろうか。 因みに、もちろん俺は立場上バックアップなどとは無縁である。この感覚を第三者に管理されるなどごめんだ。そうは言いながら、ニュースをシステムを利用して見ていたりする俺も依存の例外ではないのだろうが。 「医療にまで手を出して。とことん生活を支配するつもりなんですかね。」 「便利なんだから、いいんじゃないか? 確かに特別区の人間は好きではないが。」 色々と情報を持っている為そんな流暢なことは言ってられない。 「そのうち、そこらじゅうで記憶チェックなんかされるようになっちゃいますよ?」 「プライバシーくらい考慮してくれるだろう。一般区特別区協定にも明記されている。」 「どうでしょうかね。」
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