王女は勇者の夢を見る

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 それから十数年の月日を経て、  林の中。罠にかかり、網に捕らえられた黒き獣が暴れ狂う。人の数倍の大きさで、むき出しの牙も黒く、濁った灰色の瞳は自らを囲む人々を映す。  何十人もの兵たちは獣を囲み、槍や剣でその獣を貫こうとするが、その皮膚は堅く貫ける気配がなければ、獣が弱る様子もない。それでも、皮膚の柔らかい急所を探して、兵たちは獣を突き続ける。 ビビッ、ブチバチバチッ 「網が裂けた!逃げろ!」  兵の一人が叫んだが、時すでに遅く、獣が網からその巨体を躍り出す。その勢いに、獣を取り囲んでいた兵たちは吹飛ばされた。 「陣形を立て直すんだ!クリスト王子が来られるまで持ちこたえろ!」  誰かがそう叫ぶも、吹飛ばされたときに打った場所が運悪く、立ち上がることのできない者もいる。  自由を手にした黒き獣は、血を流し、立ち上がれなくなっている兵の一人に目をつけて、その兵めがけて口を大きく開いたとき、  ヒュッ、バキッ  その口の中に一本の矢が入り込んで折れた。そしてもう一本、矢は獣の鼻に当たる。  どちらの矢も獣に傷を負わせることはできないが、食事を邪魔された獣は矢が放たれた方に意識を向けた。  その方向には馬にまたがる少女が一人、獣に向けて矢をつがえている。 「あなたの相手は私よ」  水色の瞳で獣を睨み据え、矢を放つ。矢は獣の額に当たり、やはり獣に傷はないものの、獣は少女めがけて駆け出した。  少女も華奢な体とは対照的に力強く手綱を操り、一つに束ねた、長く淡い黄色の髪をなびかせて馬を駆けさせる。
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